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被害者は誰?
キャッシュカードを偽造して預金を不正に引出した場合、被害者は当然、預金者のはずです。しかし、刑法的にみると、被害者は預金者ではないのです。
●まず、キャッシュカードを偽造することは、刑法上はどんな罪になるかを考えてみましょう。
犯罪として成立するかどうかは、集められた証拠などをもとに個別に判断されますが、一般に「支払い用カード電磁的記録不正作出罪」が成立すると考えられます。
この法律は、クレジットカードやキャッシュカードなどの電磁的記録を不正につくったことを、罰しようというものです。
10年以下の懲役または100万円以下の罰金に処され、未遂でも罰せられます。
この不正作出罪の保護法益は、さまざまな考え方はあるものの、カードを用いた支払いシステムへの社会的信頼とされています。
つまり、この法律が一番に守ろうとしているのは、社会的な信頼です。
社会的な信頼を守ることは、個人を守ることにつながります。
しかしながらこの法は、個人の財産を、直接的に守る主体とはしていません。
また、キャッシュカードを構成する電磁的記録をつくる権限は、そのカードの発行者にあると考えられます。カードの発行者とは金融機関です。
そういった意味からも、キャッシュカードを偽造された被害者を、預金者であると捉えることは難しいとされています。
●次に、ATMでキャッシュカードを使い、預金を引出すという場合を考えてみましょう。
現金という他人の財物をとったのですから、この場合、窃盗罪が成立します。
しかし、ATMは人間ではないので、そのATMの中の現金を占有管理している人が被害者ということになります。
つまり、金融機関が被害者になるのです。
ちなみに窃盗罪は10年以下の懲役が科されます。
盗難カードで残高照会をした場合、窃盗未遂になるとされています。
ATMに盗んだキャッシュカードを挿入し、残高照会しようとした行為が窃盗未遂に当たるかが争われた裁判がありました。
判決は、残高照会についても「カード挿入時点で窃盗に着手している」と窃盗未遂罪の成立を認めました。
●では、偽造したカードを使ってお金を引出すということは、詐欺になるのでしょうか?
偽造したニセモノのカードを使ってお金という利益を得るのですから、詐欺罪が成立しそうに思えます。
しかし、(ひいては金融機関をだましたことにはなりますが)直接的にだました相手が「ATM」であることが、詐欺罪の成立を阻みます。
詐欺罪の条文の中には、「人を欺いて」と書かれているからです。
機械であるATMは要件に当てはまらず、詐欺罪は成立しません。
結果的に不正引き出しのどの過程をとっても、刑法上、預金者は被害者にならないのです。
金融機関が被害者といっても、結局、損をするのは預金者です。
刑法上の被害者が金融機関であるために、被害届を出せるのは金融機関になってしまいます。
預金者は警察に被害届を出そうにも、なかなか受け付けてはもらえません。
しかし、金融機関は被害届を出すことをしぶるので、警察も捜査に乗り出しづらい面があるのです。
とはいっても、被害にあった際には迷わず警察に行くべきです。
被害届という形で受け付けてもらえることは少なくても、ゼロではありません。
まれに、預金名義人の名前で被害届を受け付けたケースもあります。
何より、被害者である金融機関が被害届を出さない場合、なかなか事件が明るみにならないため、警察に届け出ることが「捜査のきっかけ」になるからです。
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